アキ・エンタープライズ有限会社 秋山元志

 地下鉄谷町線から5分ほど歩くと大きな楠(くすのき)が見えてくる。枝葉はすでにないが、生い茂る周りの木々よりも高く、見る者を魅了する圧巻の大木だ。晴れた空と相まってより美しく、神々しく見える。 

 その楠のすぐ近くに事務所を構えるアキ・エンタープライズ有限会社の秋山元志社長にお話を伺った。 

ファッション業界からスタートした社会人人生

 駐車場経営、不動産、日用品雑貨等の仕入れ・販売等を行なうアキ・エンタープライズ有限会社創業の第一歩は戦後間もない昭和中期、秋山さんの祖父が酒屋を経営していた頃にさかのぼる。高度成長とともに商売は軌道に乗り、たくさんの土地を購入したことが駐車場経営、不動産業務の礎となった。 

 秋山さんが生まれたのは昭和31年の東京大田区。父親が転勤の多いサラリーマンだったため、小学生時分は家族とともに大阪や神奈川で過ごし、後に大学を卒業。就職を機に地元大阪に戻る両親と離れ、神奈川県川崎市での生活を始めた。 

 ファッション業界への憧れから、進んだ道は婦人服のアパレル。傘やレザー、毛皮製品も扱った。バブルの少し前ではあったが当時毛皮は大人気。百貨店で1600万円の毛皮が売れた時代である。秋山さんは毛皮、革鞄と業界を渡り歩きながら営業力を磨き続けたが、転機は突然訪れる。父親の病気をきっかけに仕事を辞め、大阪に戻ることとなったのは42歳の時だった。 

42歳からの再出発

 42歳。家族もいる。無職。求人雑誌を見ながら何件も電話をかける中、台湾資本のとある会社から採用を受けた。日用雑貨やスポーツ用品を中国から輸入・販売する仕事だ。当時、その会社は日本に来たばかり。仕入れと販売は百貨店時代から培ってきた。その営業力が評価され、オープニングスタッフとしての入社が決まった。

 会社は5年ほどで縮小していったが、秋山さんにとって、この会社での出会いは大きい。
 台湾・中国から物品を輸入できる仲間ができた。後にホームセンターのバイヤーとなる仲間ができた。
 秋山さんが「当時の残党」と親しみを込めて呼ぶこのメンバーとの出会いが、その後の秋山さんの人生を左右する。

そして独立

 平成16年。48歳。祖父の代から続く会社の定款に【日用品雑貨・スポーツ用品・健康機器の仕入れ及び販売】と追記した。

 それから17年。秋山さんのもとにはホームセンターのバイヤーから「〇〇を仕入れてくれないか」との依頼が来る。依頼が来れば電話一本でそのルートを作る。
 仕入れ先から販売先までがスムーズに繋がっている。そんな最高の人脈やルートはどのようにして作られたのか。

 答えは「当時の残党」。42歳の時に出会った仲間たちが今は多方面で活躍し、ともに社会を生きている。

 アキ・エンタープライズ有限会社の一押し商品は水素珪素天然水。富士山に降り注いだ雨や雪が長い年月をかけて地中にしみ込み、湧水となって出てきたものを採取した天然水で、水素・珪素・バナジウムをはじめ、様々なミネラルが含まれる。
 2リットルで570円。決してお安くはないがミネラル不足に陥りがちな昨今、リピーターが多いという。

ミネラルたっぷりの水素珪素天然水

再び楠の下へ

 テニスは週に2回。月に1度のゴルフ。月に2度のソフトボール。2022年現在、65歳になった秋山さんの人生は楽しい。バイヤーとの人間関係を楽しみながら、これからもまだまだ働くつもりだという。また、地元貢献の意味から町会長や神社の氏子総代、祭りの相談役も務める。ライオンズクラブにも所属しながら土曜日曜は介護デイサービスの送迎もしているというのだから驚きだ。

「何か若いころの武勇伝はありますか?」
 そう尋ねると、ニヤリと笑いながら、隣の部屋にいらっしゃるであろう奥様に聞こえないようにそっとこんなことを教えてくれた。
「百貨店で働いているとき、たくさんのモデルと仕事で繋がったんだけど、彼女たちもモデルだからといってお高くとまっているわけでもなくすごくいい子達でね。『いいにおいがするね、キミ』と声をかけては遊びに行ってたよ」

 なかなか武勇伝のチョイスが面白い。そして羨ましい。

「少し外に出ようか」
 と秋山さん。ついて行くとそこはあの大きな楠(くすのき)の下だった。聞くと桜ノ宮御旅所(楠玉神社)の楠らしい。樹齢は1000年以上。大阪府の天然記念物にも指定されている。

「地車保存会も務めてるんだよ」とシャッターを開け、地車を見せてくれた。


 楠にも、地車にも、深い歴史の跡がある。そして秋山さんにも。

 もうすぐ66歳。されど66歳。現役を貫く秋山さんの毎日はこれからも色褪せることはない。


 帰りに駅まで送ってくれた秋山さんの背中は、取材前よりも随分大きく見えた。

アキ・エンタープライズ有限会社
〒534-0015
大阪市都島区善源寺町1-9-11

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この記事を書いた人

熊本県八代市出身
兵庫県西宮市育ち
大阪市在住
九州男児と胸を張るが実は熊本は生まれただけ。
当然のようにネイティブ関西弁を扱う。

ライター時代は格闘技、美容、風俗、コラムなどを執筆。
現在ラヂオきしわだにて「風祭耕太のわらしべTalking」を担当。
2022年5月kazamatsuri-magazineスタート。

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