彼女と出会ったのは経営者の集まる交流会だった。
21歳。学生起業家だという彼女の顔から学生らしさは感じられない。周りの起業家同様、凛とした顔つきで話すのが印象的だ。
究極の選択
ゴルフを仕事にするきっかけは少女時代に遡る。テレビの中で活躍する宮里藍を見て「カッコいい」と呟いたのがすべての始まりだった。本人はその発言を憶えていないようだが、母親はしっかりと聞いていた。
「普通の子育てはしない」という教育方針だった母親は杏さんに2つの選択肢を与える。
ダンスをするか坂田塾でゴルフを学ぶか。
幼いころからヒップホップやジャズダンスを経験していた彼女だが、選んだのは坂田塾でのゴルフだった。
坂田塾とはプロゴルファー坂田信弘主宰のゴルフ塾である。世界で闘える日本人が少なすぎるという思いから立ち上がり、当時はかなりのスパルタ教育で有名だったが、その実績は素晴らしく、有村智恵、上田桃子、古閑美保といったプロを輩出している。
華々しく活躍する女子プロゴルファーを見て「私もテレビに出たい」と感じたのが橋口さんのゴルフを選んだ理由だった。2010年5月。まだ彼女が10歳の時である。
自分の使命を知る
プロテストは18歳から受けられる。毎年600人が受けるも合格するのは上位20人という狭き門。プロゴルファーを目指して入塾し、練習を積み重ねた彼女だったが、18歳の時、それを受けることを諦めた。ゴルフと向き合いながら感じたのは自身の実力、センス、ポテンシャルの限界だった。
大学に進学しながらも彼女はゴルフを続けた。そしてインスタグラムで活躍する、いわゆるゴルフインフルエンサーと出会うことになる。
インスタグラムを通じて自身を世に発信するインフルエンサー。様々な分野の人がインスタグラムを活用しているが、ゴルフ界も例外ではない。自身を売り込むことで存在をアピールし、収入を生むこともある。
そんなゴルフインフルエンサーと出会うことで彼女はある事実を知る。
ゴルフインフルエンサーとなった女性ゴルファーのゴールはそこにはない。彼女たちもまた難関のプロテストに合格するためにゴルフの技術を磨き、インスタグラムを通じて収入を得る。そしてその収入は生活のためではなく、プロテストを受けるのに必要な費用に充てるためのお金なのだ。その額200万円。華麗な写真や動画の奥底では、彼女たちの並々ならぬ努力と執念があった。
これからプロになろうとしている女子ゴルファー達のサポートがしたい。もっとゴルフの素晴らしさを世に広め、女子プロの支援ができる組織を作りたい。
そう思った橋口さんは2021年8月、クラウドファンディングで資金を募り、同年11月1日、JLPGAを目指す宣言プロと、アマチュアゴルファーを繋ぐことでゴルフをより楽しく(Joy)、女子プロに支援をする(aid)株式会社JoaGOLFを開業した。
JoaGOLFにしかできないサービスを
JoaGOLFに入会すれば定期的に女子プロとの交流コンペに参加でき、協賛のジムやサロンの会員限定クーポンが手に入るなどの利点があるが、醍醐味は女子プロのレッスンを直接受講できるところにある。個人レッスンではバンカーショットが苦手であればバンカーが得意な女子プロを、飛距離を延ばしたい人には飛距離が持ち味な女子プロをなど、ニーズに合わせたプロを紹介してくれる。練習場だけでなく、もちろんラウンドレッスンも受講可能。利用した練習場やラウンドレッスンの費用は女子プロゴルファーへと渡り、JLPGAのプロテストの費用として支援される。
橋口さんの目標は所属プロ全員にスポンサーをつけること。JoaGOLFに入っていれば間違いないと思われる組織になることだという。
「これからは法人プランも作っていきたいと思っています。ワッペンや帽子に広告を出すことで企業イメージのアップに繋がったり、レッスンを受けて頂くことでゴルフをする社員さんの福利厚生になれたりすれば嬉しいです。できればツアーも作りたいですね」
アマチュアゴルファーと女子プロゴルファーを繋ぎ、アマチュアゴルファーにはスコアアップを、女子プロゴルファーには資金支援を行なう。そんな今までになかった新しいサービスを作り、展開しているJoaGOLFにはまだまだできることがたくさんありそうだ。
「例えば服も好きなのでアパレルとかもやってみたいんです。でも子どもの頃からゴルフのことばかり考えてきたので、アパレルのことを考えても、どんなゴルフウェアにしようかなとか、サブスクでいろんなゴルフウェアを着てもらえるサービスを作ろうかなとか、なんでもゴルフに繋げてしまうんです」
「40歳になったときにFIRE(経済的自立と早期リタイア)したいです。それから好きなことをして生きられたらいいなと思います」
そう言って笑う橋口さんの笑顔を見て、初めて学生らしい無邪気さを感じた。ただ、彼女の行動力を見ているとすべてが実現できそうで楽しみにも思えてくる。彼女が40歳になるであろう約20年後には、きっと【好きなこと】といいながらゴルフをしているんだろうなと想像したあと、自分の年齢を思い出してぞっとした。
そうか、俺、もう40か。
株式会社Joaゴルフ
〒655-0011 兵庫県神戸市中央区下山手通
http://joagolf.jp