フランスへの憧れを諦め美容業界へ
大阪人にとっては日航ホテルの地下1階と言った方が分かりやすいかもしれない、心斎橋の大丸ホワイトアベニューにあるセレクトショップ「ブランシュネージュ」。店内には社長自らが作り、あるいは仕入れてきた洋服、バッグ、アクセサリーなどが数多く並んでいる。
「ここはTOKIMIのクローゼットなんです」と話すのは株式会社ブランシュネージュ代表取締役の竹城時未(たけしろ ときみ)さん。
洋裁の仕事をしていた母親の影響で物心ついた時から「ハンドメイド」が身近にあり、リカちゃん人形の洋服を自作したり、ビーズでアクセサリーなどを作っては友達にプレゼントしたりする女の子だった。ベルサイユのばらの影響を受けていつのまにかマリー・アントワネットのヘアスタイルやファッションが好きになり、フランスのブランド、映画、女優、文学にも興味を持った。
もちろん大学はフランス語学科を専攻。ところが真剣に将来を考えた時にフランス語を活かせる仕事は少なく、覚えたフランス語も通じない。フランスでマックシェイクを頼んだ際、フィレオフィッシュが出てきたのを機にフランス語を活かした仕事に就くのは諦めた。
大学時代、肌トラブルに悩んでいた彼女は悪徳な美容商法に引っ掛かり、強引な契約を迫られる。美しくなりたいという気持ちを逆手に取る行為に反感を覚え、正しいエステを提供できる仕事に就こうと、卒業後、大手エステ企業にて社会人のスタートを切った。
エステティシャンにとってお客様の気持ちに寄り添えることは強みとなる。自身が経験したからこそわかるお客さんの肌の悩みを解決すべく、技術や知識をどんどん身に着けていった。お客さんに施術をし、綺麗になってもらう仕事を楽しく感じていた5年目のある日、会社から配属変更を命じられた。与えられた仕事はカウンセラー。聞こえはいいが、最終的にお客さんにクロージングをかける仕事。エステは良いものだというのは実感している。でも、受けたい人に受けてほしい。しかし大手企業であるが故、やはり売り上げ、成績のためには多少強引なクロージングも必要となる。それを知った竹城さんは退職を決意。その後、1~2年をかけてお金を貯め、マンションの一室でエステサロンをオープンさせた。29歳の時だった。
エステ兼お稽古サロンへ
今のようにSNSのない時代。大手企業の看板を持たない小さなサロンでの集客は上手くいかない。そこで空いている時間に生活費を稼ぎながら自身の知識や器を広げようとバイトを掛け持ち。ホテルのフロントとして接客を学び、美容外科では美容医療の現場を学んだ。
仕事三昧ではストレスがたまるが、竹城さんは決して息抜きを忘れない。昔から好きだったハンドメイドの世界を思い出し、ポーセラーツを学び始めたことで彼女の人生は少しずつ好転していく。
ポーセラーツとは磁器に絵や模様を施すもの。ここでハンドメイド好きの血が騒ぎ、どっぷりとハマった結果、一年もかからないうちにインストラクターの資格を取った。幼いころからもの作りが好きで、得意だった彼女の作品はエステのお客さんの好評を得て、次第に教えてほしいという声が届いた。
「好きこそものの上手なれ」「芸は身を助く」とはよくいったもので、好きだったこととやりたいこと、やるべきことが一つに繋がった瞬間だったのかもしれない。マンションの一室で始めた小さな店舗はエステ兼お稽古サロンとなった。
エステのお客さんは通うとしても月に一度、もしくは二度。ところがお稽古サロンは違う。その日、その時間にイベントを組めば興味のある人が来てくれる。竹城さんはポーセラーツだけでは飽き足らず、憧れの国フランス、しかもマリー・アントワネットと同じ18世紀から続く伝統工芸「カルトナージュ」を学び、半年でインストラクターとなり、新たな習い事としてサロンのお客さんへ教えた。
素敵なポーセラーツやカルトナージュを楽しく、上手に教えてくれる平成のマリー・アントワネット。お客さんからの期待は「あれできる? これもできる?」とどんどん高まっていき、その思いに応えるように竹城さんは次々とインストラクターの資格を取得していった。お稽古はプリザーブドフラワー、料理教室、和菓子作り、パン作りと展開していく。もちろんパンがない時はケーキを作ってみんなで食べた。
ワイヤーバッグとの出会い
竹城さんがワイヤーバッグに出会ったのは5年前。光沢のあるビニル素材のテープで編み込まれたその姿をインスタグラムで見て一目ぼれをした。元来キラキラ・リボン・ヒラヒラ・フワフワ・フリフリが大好きなプリンセス気質。これを学べばキラキラのカバンが自分で作れる! そう思った時には申し込みを済ませており、持ち前のセンスと集中力を発揮し、一か月という異例の早さでインストラクターとなった。
できたワイヤーバッグをインスタグラムに載せる。売ってほしいと声がかかる。注文が入って販売する。それを繰り返している内に百貨店でのポップアップの話が来た。
ところがなかなか最初は苦労した。ポップアップ期間は一週間。その一週間で売り上げが2万円にしかならなかったこともある。収入にはならなかったが、竹城さんは商品を知ってもらうことに力を注いだ。その後も年に数回ほど届くオファーを大切にしながら展示を続けるうちに売り上げも上がり、依頼の頻度も増えた。エステを経営しながらお稽古サロンをし、百貨店でのポップアップ。碌に休みもなかったが、その努力が報われ、今では大丸、近鉄、阪急、高島屋など、全国の有名百貨店でポップアップを行なっている。売り上げも好調だ。
2020年9月。遂に自分の店を出す時が来た。大丸百貨店からテナントが空いたとのお知らせ。通常は個人事業ではテナントには入れない。しかしコロナ渦で店舗の撤退が続いた影響とポップアップの実績から、法人化するという条件のもと、個人事業で出店が決まった。約束通り三か月後には株式会社Blanche-Neigeとして法人化した。
セレクトショップ「ブランシュネージュ」
初の出店。ハンドメイドの自分のお店。憧れの城を手にしたプリンセスだったが、思考はリアルな経営者。ワイヤーバッグを中心としたハンドメイド商品だけでは売り上げが弱いと思い、洋服、アクセサリーなどを海外、国内両方から仕入れた。
自分の作るカバンに合うものを取り揃え、トータルコーディネートを行なうセレクトショップ。自分の好きなものだけを扱うセレクトショップ「ブランシュネージュ」の誕生である。
出店から約3年。2023年6月に店舗拡大。今では仕入れた品が7:ハンドメイド3の割合で数多くの魅力的な商品が並ぶが、やはりハンドメイドの商品はこれからも増やしていく意向だ。
ハンドメイドは自分のものだけではなく、違う作家の作品も取り揃えている。現在、6人の作家が作品を陳列、販売しており、それぞれの作品ごとの味を出し、店のラインナップはどんどん充実していく。
ブランシュネージュの商品は自分用はもちろん、プレゼントにも喜ばれる。母の日だったり、友達の出産祝いだったり。赤ちゃん用のスタイやヘアバンドも人気商品の一つ。女性だけでなく男性用のネクタイやカフス、靴下などの雑貨も取り扱っているため、手土産としても人気がある。そういった商品の仕入れもすべて竹城さんが担当している。
「周りを見ているとひらめくんです。女性っていつまでも可愛くいたいものなんです。だから杖をついたおばあちゃんを見ていてもリボン付きの杖があれば可愛いだろうなって思うと、頭の中に新商品が浮かびます。そうやって浮かんだものをハンドメイドで作ったり、仕入れたりして、今後もかわいい商品を増やしていきたいと思います」
夢はやっぱり自分のお店
竹城さんに今後の夢を聞いてみた。
「百貨店も嬉しいのですが、やっぱり最後は自分のお店が欲しいです。どこかに戸建てを借りて1階はセレクトショップ、2階はお稽古の教室、3階はフェイシャルエステ。お稽古の教室は誰かに貸して利用してもらうのもいいですよね。エステも習い事もセレクトショップも、私の好きなこと全部できるお店を作りたいです」
「ブランシュネージュ」はフランス語で『白雪姫』を意味する。どこまでいってもプリンセスだ。
そんなお姫様の「好きなもの」「好きなこと」を好きなだけ集めるセレクトショップはまさに【TOKIMIのクローゼット】。
ハンドメイド、フランス、プリンセス—。
小さな頃に神様から与えられた三つの宝石は、これからも彼女によって磨かれ、彼女のために光り続けることだろう。
株式会社Blanche Neige(ブランシュネージュ)
大阪市中央区西心斎橋1-3-3 日航ホテル地下1階 大丸ホワイトアベニュー
ブランシュネージュ | Blanche Neige (blanche-neige.xyz)