大阪馬肉屋株式会社 代表取締役 上田隆幸

大阪馬肉屋株式会社 代表取締役 上田隆幸

鮮度にこだわる「大阪馬肉屋株式会社」

大阪府箕面市に本社を構える「大阪馬肉屋株式会社」。馬刺し販売専門店「大阪馬肉屋」を営む上田隆幸社長と出会ったのは父の日の少し前だった。


「親父が馬刺し好きなんです。送ってやりたいのでお願いします」
 そう依頼してすぐ、上田さんは父の日に間に合うように馬刺しを手配してくれた。

 通常、屠畜された馬は大きく切り分けられ、大きなかたまりのまま一旦冷凍保存される。そして注文に応じて解凍し、ばらされ、小分けされた後、再び冷凍されて全国へと発送される。

 ところが大阪馬肉屋は違う。産地で朝8時半に屠畜された馬は大きなかたまりでは冷凍されず、すぐに捌いて小分けにし、当日14時には真空パックの状態で冷凍。そこから大阪馬肉屋へと発送される。

食べてみれば差は歴然。屠畜から発送までの時間はもちろん、冷凍、解凍を繰り返すことで起こる味の劣化を見事に抑えている。馬刺しを食べたことがある人にはわかるだろう。ただでさえ美味い馬刺し。それを超える美味さを提供するのが大阪馬肉屋株式会社だ。まさに鮮度が違う。

若かりし頃の失敗談

そんな上田さんも生まれながらの馬肉屋ではない。もともとはWebやグラフィックのデザイナーをしていた。さらに遡ればネクストライヴというアカペラグループのメンバーでもあったし、今でこそ仕事に情熱を注ぎ、優しい笑顔を見せる上田さんだが、少年時代はなかなかやんちゃな育ち方をしている。

「実は、鑑別所に入っていたことがあるんです」

 高校一年の二学期で学校を中退したという上田さん。大手中華料理店で大好きなバイクに跨り、出前のアルバイトを始めた。バイクにガソリンを入れるとき、ガソリンスタンドで働いていた一つ年上の女性に恋をする。足しげく通い、ようやくこぎつけた初めてのデートの最中、親から電話が入った。「家に警察が来ている」と。

当時の時代背景もあるのでここでは詳しく書かない。ただ、凶悪な犯罪ではないというのは名誉のためにいっておく。

「俺、明日逮捕されるわ。俺が出てくるまで待っててな」
上田さんは母親からの電話を切り、そう彼女に告げたという。

更生のきっかけ

取り調べで担当した刑事がとても粋な人だった。事件のことももちろん聞くが、プライベートに関する自然な会話もしてくれる。上田さんの恋愛話を聞いた刑事は取り調べ後、ガソリンスタンドに行き、彼女に手紙を書いてもらうよう頼んだという。

 彼女から鑑別所へと送られてくる手紙。鑑別所から彼女へと送られる手紙。トイレと洗面所しかない独房の中での小さな楽しみはしばらく続いたが、ある日届いた彼女の家族からの手紙でそれは終わりを迎える。「犯罪者と娘の交際は認められない」という内容だった。

 落ち込む上田さんに刑事が伝えた言葉。

「お前が鑑別所に入らなかったらこうはならなかったはず。お前のしてきたことの結果がこれや。どう感じる? でもお前はまだ16歳や。これからなんぼでもやり直しがきくんやぞ」

この言葉が更生のきっかけとなる。

 鑑別所を出た上田さんは工事現場、建築現場、クレーンオペレーターと職を転々としたが、何気なく始めたWebサイトのバイトが長続きした。そして29歳で求人広告の大手「大新社」に入社し、31歳で独立。デザイナーとしての道を歩み始める。

 デザイナーの仕事は企業のホームページを作り、チラシを作り、アクセス数や認知度をあげるもの。人のビジネスの販促の手伝いともいえる。数々のビジネスを手伝う中でわかったことがある。

「いくら良い販促物を作っても、サービスが伴っていなければ売り上げはあがらない。良質のサービスに良質な販促、これがそろった時に売り上げが上がる」

 そう思った時、心の中で目標ができた。

「自分の力で商売がしたい」

馬肉販売をスタート

 販促物を作る技術はある。あとは良質のサービスを探せばいい。アンテナを張る毎日の中で、青森の馬刺しの仲介人と出会う。とんとん拍子で話が進み、青森馬刺しが大阪馬肉屋のスタートとなった。とはいえ青森の馬刺し生産量は日本3位。本場はやはり熊本だ。

熊本の馬刺しを扱いたい—。

決断した上田さんの行動は早い。あっというまに熊本の個人ブローカーに連絡し、熊本の馬肉卸業者を見つけ、2013年に個人事業として販売をスタート。2018年に大阪馬肉屋株式会社となり、2023年7月現在、五期目を走っている。

 生肉のファンは一定数いるが、牛にしろ鶏にしろ生食は命に係わるリスクがある。平成24年から生レバーの提供が禁止になったきっかけは誰もがご存じだろう。一方、馬刺しは他の肉と違い、生食の安全性が高い。大阪馬肉屋株式会社の仕事は馬刺しの小売り。飲食店ではなく、自宅で食べてもらうのが目的だ。珍しい業態はあっという間に浸透し、現在大阪を中心に6店舗展開している。

「刺身で食べるならおススメは天丸(てんまる)いうて、モモのええとこです。でも、ほんまのおすすめは脂の多いバラ肉の表面を軽くあぶって塩ですね。香りがたまりません」

 そういって上田さんは笑う。馬刺し屋が馬肉を焼けというのだから食べてみる価値はある。

飲食業界を自分が変える

「高品質な馬刺しをメニューに加えたいという飲食店向けに、今年から馬肉の卸売りを始めました。熊本、青森、奈良、そして内モンゴルから品質を厳選して仕入れています。熊本、青森、奈良は国内肥育の国内加工、牧場から加工までの全ての業者様と直接関わっています。内モンゴル産の馬肉は国内のものと比べて安価なので取り扱っていますが、厳格な衛生管理の整った施設で加工されており、品質については馬肉を10年以上取り扱ってきた弊社が太鼓判を押せるものです」

 自宅での馬刺しが浸透したら、次は飲食店への卸売り。2023年7月には馬刺しが食べられる牛焼肉屋もオープンさせた。

「コロナの影響で小売りの馬肉屋は大ヒットしました。創業から毎年1店舗のペースで9店舗まで出したのですが、今動いているのは6店舗だけです。今回の焼肉屋も増やしては行きたいけど、足元をしっかりと固めながら少しずつ展開できればなと思っています」

 経営者として世の中の流れ、タイミングを掴み、冷静な店舗展開を考える上田さんに次なる目標を聞いてみた。

「今後は食肉センターを作りたいと思っています。馬も牛も、自社で加工できるともっと鮮度は良くなるし、コストも抑えられます。そして何より労働時間の改善になります」

 労働時間の改善とはどういうことだろう。

「僕は結婚して、子どもができて、社員のみなさんに仕事を任せながら子どもたちと自由な時間を過ごすことができました。子どもが親といれる時間なんて少ないじゃないですか。その時間を社員のみなさんにも大切にしてほしいんです。ご存じ飲食業界は忙しい世界です。土日は仕事だし、夜も遅い。でも食肉センターは明るいうちの仕事なんですね。子育て世代の社員がお昼間に勤務できて、晩ごはんをご家族そろって食べていただけるよう配置転換。そうすることで働きやすい環境を作り、飲食店のブラックなイメージを変えていきたいんです」

 上田さんは真っ直ぐな、優しい目をしている。それはきっと、未来の幸せな社員の姿が見えているからだろう。未熟だった頃に身をもって学んだ「自身の行ないが結果を作り出すこと」、そして「今からでも未来は変えられるということ」を知っている上田さんは強い。

 大阪馬肉屋株式会社。この名が全国に轟く日は近い。上田社長の馬力を掛ける姿を、これからも見ていきたいと思う。

大阪馬肉屋株式会社
大阪箕面市西宿1-8-17
大阪馬肉屋|馬刺し用馬肉販売専門店 (banikuya.jp)

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大阪馬肉屋株式会社の紹介動画

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この記事を書いた人

熊本県八代市出身
兵庫県西宮市育ち
大阪市在住
九州男児と胸を張るが実は熊本は生まれただけ。
当然のようにネイティブ関西弁を扱う。

ライター時代は格闘技、美容、風俗、コラムなどを執筆。
現在ラヂオきしわだにて「風祭耕太のわらしべTalking」を担当。
2022年5月kazamatsuri-magazineスタート。

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